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報道新聞掲載|沖縄県難聴福祉を考える会

琉球大学教授 野田 寛

1998年(平成10年)4月29日琉球新報掲載

活気取り戻す難聴高齢者

ー集団補聴装置磁気ループー

集団補聴の一つに「磁気ループ」がある。講演会場などに磁気ループを設置しマイクシステムに組み込み補聴器を「T」に合せると、マイクの音を直接補聴器の中に入れられる。 非常に良く聴こえるので難聴者の中には、二十〜三十年来、こんなにはっきり聴いたことはないと感激されることがしばしばだが、これは通常、補聴器を「M」にして聞いている時には周囲の雑音も入ってくるが、磁気ループではマイクの音のみなので、実に明瞭に聴こえる。
 この磁気ループは、欧米先進国では人の集まる集会場、講演会場、劇場、音楽会場に設置されているのが常識であるが、我が国ではこのような知識が普及しておらず、わずかに難聴者の集会に使われるのみである。沖縄県では、奉仕団体などにより、沖縄コンベンションセンター、新報ホール、タイムスホールなどに設置されており、この面では先進県だが、いまだ三十カ所に満たない。同じ目的で赤外線やFMによるものもあるが、それぞれ専用の補聴装置が必要なので、補聴器を「T」に切り替える磁気ループが安価で早道である。
 高齢化社会に入り、難聴高齢者が増加してきているので、補聴器適合によりコミュニケーション障害を解消するとともに、この磁気ループを公民館、市民会館など設置する社会整備を行えば、七十歳を超すと約半数に生じてくると言われる高齢難聴者の社会参加も可能となり、高齢化社会が活性化され、ボケの進行の防止、「寝たきり」「認知症」の減少、ひいては医療費、介護費の軽減にもつながろう。
 この磁気ループは、家庭内でも使用可能で、すなわちテレビにセットすれば家族と同じ音量で共に楽しめるし、カラオケにセットすることも可能で、さらに電話に配線すると、かなり難聴が高度でも電話での会話が可能となる。
この磁気ループを外来診療に組み込むと、大声で繰り返し話さなくてもすむので、お年寄りの多い内科などで活用している医師も出て来ていて有用である。そして、そればかりでなく、難聴患者の表情・態度の変化に聴こえの重要さを再認識させられている。一般に難聴者はあきらめきっていて、活気ない表情で家族に引き連れられてくるか、逆に聞こえないため周囲からばかにされていると感じているのか、イライラし怖い表情をしているが、磁気ループではっきり聞こえこえてくると、とたんに表情が変わり、活気のなかった人はパッ明るく自信に満ちた表情に変わり、イライラしていた人は落ち着いてにこやかにその人本来の表情に変わる。良く聴こえないことが、どれだけ難聴者を障害し、人間が、人格が変わるほどに苦しませているのかがよくわかる。
 ある離島で、数年前に福祉支給された不適合補聴器を調整して良く聴こえるようにしてあげたら、「これで人間に戻れました」と発した患者の言葉とともに、聴こえが人間の生活にいかに重要で、それが障害されると、どれだけのダメージとなるかを思い知らされている。